人生で尊敬している人間を3人挙げろと言われれば、YOU THE ROCK!とQUINE、そして新城カズマの3人があがりますが、今日は我が尊敬すべき新城氏のクラシック「蓬莱学園」シリーズの中の「蓬莱学園の犯罪(上)」評を書いてみようと思います。

この作品は、富士見ファンタジア文庫から平成4年に出版された名作です。まだライトノベルブームなど存在しておらず、ラノベといえばロードス島戦記かフォーチュンクエストかという時代に出版されたものです。もともとPBMであった「蓬莱学園*1からスピンアウトした作品ですが、内容はなんと驚きの通貨流通を題材とした作品となっています。

蓬莱学園の犯罪」はギャンブラーが主人公なのですが、ギャンブルといえば黎明期の資本主義と密接に関係があるわけです。この点を新城氏は見逃しません*2。なぜか。理由は、現在市場に流通する貨幣の総量に対して、どの程度の貨幣の発行が可能であるのかを逆算することで、貨幣のもつ価値を下落させずに、貨幣流動を高めようと彼らはもくろんでいたわけです。貨幣流動が高まれば、好景気になりますが、逆に市場に貨幣が出回りすぎると、物の価値が下がります。そのために、彼らは貨幣の選好性を計算し、その総量をコントロールすることはできなくとも、いわばフロー(貨幣の流入の部分)の部分を調整しようとしていたわけです。ここに確率が紛れ込む余地がある。「どの程度の貨幣の発行が可能であるのか」とは確率の問題に他ならないわけですから。さて、このように貨幣の流通を人為的に管理できる程度の規模での経済において、オルタナティブな貨幣通貨の発行、流通を促進することは何を意味するでしょうか。もしそれがうまく流通するならば、現在支配的に流通していいる貨幣の価値を下げるだけにとどまらず、オルタナティブな貨幣通貨こそが真の貨幣となるでしょう。では、このオルタナティブな貨幣通貨の流通を促進するにはどうすればいいか。ここに「蓬莱学園の犯罪」の主人公の英知が働きます。詳しくは書きませんが、正直、あまりにも斬新なアイデアゆえ個人的には一読の際に「新城は天才か!」と思ってしまいました*3

とはいえ、上記のような小難しい評を抜きにしても、この作品も名作だと思います。天才新城ここにありといった感でしょうか*4

*1:http://www.medias.ne.jp/~manase/history/history.html

*2:経済学者であったケインズもアローもそもそも確率の研究にいそしんでいたわけです。

*3:おそらく、経済学的に言えばアローの考えをそのまま転用しているということになるのだと思いますが、ライトノベルにアローの考えをぶち込もうという考えを抱いている時点で、新城氏恐るべしです

*4:新城の天才性はなによりも作品を書く際に行われる正確な下調べと、膨大な勉強、この2つにあるといっても過言ではないでしょう。もちろん、そうした勉強を踏まえて面白い小説を書けるということは言うまでもありませんが。同じ経済小説でも村上ドラゴンの作品と比較して何ら劣っていない、それどころか経済の勉強の点でも小説の筋の点でも圧倒的に村上よりも優れた作品となっています