桜坂洋の「ALL YOU NEED is KILL」と「よくわかる現代魔法 たったひとつじゃない冴えたやりかた」読。

ALL YOU NEED is KILL」はとてもよくできている。というか傑作。TRPGをそのままラノベに持ち込んだ「フォーチュンクエスト」のように、コンピュータゲームをそのままラノベにぶちこんだ作品。

自分の戦死がリセットボタンとなって、再度同じ戦場に向かう場面へとループするというループ構造の中で、死の問題を扱っているのが本作。とはいえ、ここで扱われる死はループし続ける主人公の死でも、同じ境遇にある戦場の雌犬の死でもない。ループからの脱出という主人公や雌犬にとっては救いとなるはずの出来事が、同じ戦場の仲間の死を確定するという意味での死の問題が本作では扱われている。

ループが続く限り、戦場で死んだ仲間たちの死はリセットされ続ける(自分の死さえも無かったことになる)。しかしループからの脱出は、これまでリセットされていたはずの仲間たちの死を、正にリセット不可能な確定的な死へと変えてしまう。ループが続く限り、仲間たちの死は主人公にとってのみ意味をなす出来事として反復され、そしてまた、主人公にとってのみ記憶される出来事にすぎないのだが、主人公がループから脱出することで、死は死ぬ当事者本人の出来事となる。

つまり、主人公等のループ脱出時に偶々戦死していたやつは、その偶々の戦死という理由のみによって、死を確定されてしまう。戦死と主人公等のループ脱出が偶々一致してしまったからという理由で。このような状況を負債として背負わなきゃならない主人公等は本当に大変だと思う。ここらへんの描写がとてもうまい*1。むー、とにかく桜坂作品の中では、嘉穂たん祭り(「よくわかる現代魔法 jini使い」)に並ぶとも劣らぬ代表作な気が個人的にはします。あと、冒頭のフローチャートは二周目の楽しみに(())。

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

よくわかる現代魔法 たったひとつじゃない冴えたやりかた」もとても面白かった。嘉穂たんとオデン缶。以上。

*1:ちゅーか、雌犬さんの最後の死に方とかは、ギタイのバックアップに自分が化することを恐れるというよりも、そうした他人の死を引き受けなければならないことに対する責務の重さからの解放を選択した自決と考えた方がいいような気が