久々のラノベ評。

「七つの黒い夢」と題されたアンソロ本に収録された桜坂洋「10月はSPAMで満ちている」は少し大人になった嘉穂が主人公のミステリです。以前書いた「よくわかる現代魔法」評*1で、『異なる言語共同体において、異なる意味を担わされている単語「ウィザード」=「魔法使い」とは、その意味で、どの共同体で用いられるかに応じて異なる意味をもつわけなのですが、この小説においてはまさにその異なる意味を積極的に混同することで、ひとつの世界を構築する足場を作り出した』とかなんとか大仰に書いたわけですが、このSPAMも同じ発想で書かれています。spamSPAM。ともにジャンクで無駄でどうしようもなく下らないものなのに、くだらないものに満ちた世界って素敵よねという桜坂マインド爆発な短編。ちゅーか、桜坂たんの志向というよりもハッカー文化が基本的に語の転用に基づく言葉遊びに満ちているんでしょうな。内容は、しがない物書き志望の男の子が派遣先で嘉穂たんと出会うという話。ミステリというよりも、「よくわかる現代魔法」と同じ世界設定のもとで、現代魔法とも古典魔法とも無関係なSSを著者自身が書いてみたという感が強いです*2。個人的には嘉穂が大好きなので客観的な批評ができません。良作です。七つの黒い夢 (新潮文庫)

*1:http://d.hatena.ne.jp/jose_ning/20060923#tb

*2:とはいえ、この作者のことですから、kaseが一読しただけでは気づいていない仕掛けが本文中に隠されている可能性は否めませんが。