最近てらしい氏の生産性が向上しまくりなので、負けじと一本うpしてみることにした。

 書いてるうちにバレンタイン前日になったので、急遽バレンタインもの的な設定を追加したら


 「なつこた>たつにん」ぽくなった気がします。あるいはちづ姉最強伝説。(・3・)アルェ?

 結構長いです。


倹約スナイパーの報復


1.


 休日の繁華街はざわざわとしている。行き交うたくさんの人々の足音、話し声、呼吸、唸る車のエンジン音に立ち並ぶ店からこぼれてくるBGM。
 ざわざわとに囲まれて、ネギ・スプリングフィールドの心もどこか浮き立って落ち着かない。そもそもこの少年、不幸にも遊ぶということに不慣れである。そのために街へ出る、なんていうことにはますます免疫がない。


「なんやなー。うるさくてしゃーないわ。みんな他に行くとこないんかな?」


 隣を歩く小太郎もぶつくさと文句を言っている。しかし、こちらは浮き立つ気持ちを楽しんでいるようで、口にする言葉の割りにはワクワクとした表情。ほほが少しばかり紅潮している。


「それにしても、楓姉ちゃんがオレらふたりを修行やなくて遊びに行くのに誘うなんて珍しいこともあるもんやな」


 言って、ネギと目を合わせる。ふたりで見上げる。
 ざわざわとした街の喧噪も知らぬ気に穏やかな、いっそ茫洋たる気配を漂わせる長身の影。長瀬楓は柔らかく笑う。


「あいあい。ふたりともいつも頑張っているでござるからな。たまには息抜きも良かろう。それに、遊びの中にも修行ありーでござるよ」


「これも修行なんか!?なにすればええんや!」


「これこれ、コタロー。お主ばかり喋っては、ネギ坊主がいることを読者のみなさんが忘れてしまうでござるよ」


「へ!?」


「長瀬さん。本当にこうやって遊びに行くのが修行になるんですか?」


 ネギが存在主張をするようにたずねる。10歳の少年ながら相変わらず考えることがかた苦しい。


「ネギ坊主の場合は、難しいことは忘れて無心になって遊ぶのが一番の修行かもしれんでござるな〜」


 楓ーそう言ってから


「まあ、拙者にとっては修行というよりは、勝負というべきかも知れんでござるが」


 ぼそりとひとりごちた。
 その言葉を聴いたかそれとも聴かないかー


「まあええわ。それでどこに連れてってくれるんや!?」


 コタローが急くように問う。


「映画ーでござるよ」


 答える楓。一見していつも通りにのほほんとしたその笑顔の背後に、どこか不敵な様子があるように、ネギには感じられた。



2.


 665号室。村上夏美はリビングのソファーに座っていた。両膝を抱っこするようにして丸まっている。表情は退屈とか、寂しさとか、苛立ちとか、不満とか、いろいろと混ぜ合わさった曖昧な様子。
 しかしはっきりしない表情とはいえ、元気があるという風ではない。


「あらあら、夏美ったらどうしたの?コタロー君が長瀬さんとデートに出かけちゃったからヤキモチでも焼いてるのかしら?」


 ふらりとやってきた楓に連れられて、小太郎がほいほいと出かけていったのはつい先ほどのことである。


「ち、ちづ姉〜、な、なに言ってるの〜!い、意味わかんないよ〜。だいたい楓さんだけじゃなくってネギ先生も一緒なんだからぜんぜんデートじゃないし、だから平気だよ」


 そう言ってしまっては気にしていることを宣言しているようなものだが、夏美は気付かないし、千鶴はうふふと笑ってーそれだけだ。
 あやかでもいれば―「この際、コタローさんがついてくるのは我慢するとして、私も是非ともご一緒したかったですわ!」とか文句を漏らしたり、「コタローさんはがさつですから、ネギ先生にご迷惑をおかけしていないか心配ですわね」という口ぶりで結局はなにかと小太郎のことを気にかけたり、いずれにしろもう少し騒がしいのだろう。しかし、そんなあやかも今日は不在である。朝早くには明日菜に会いに出かけていった。あやか本人の弁によれば、小等部のころから、この時期にふたりで出かけるのは恒例になっているそうだった。


「明日菜さんひとりでは、どんなものができるか知れたものではありませんもの。まったく困ったものですわ」


 大袈裟にため息をついて困り顔をするあやか。しかし、この日のために彼女が二、三日前から、時には千鶴に教えを請うて、いろいろと準備をしていたことを夏美は知っている。それを思い出してくすりーと笑う。あやかに向けた千鶴による例の講習ー夏美もこっそり、しかし、しっかり受講していた。いかにもついでーそんな表情で。そっか〜、いいんちょアスナも準備してるんだし、私も今日はあの日の準備でもすることにしようかな?コタロー君もいないし―ってコタロー君は関係ない、ないんだけど―などとまたもぐるぐる考えている夏美に―


「それじゃあ夏美。私たちも出かけましょう」


「え?どこに?」


「映画よ」


 うふふと笑う千鶴。その笑顔はどこまでも優しく柔らかく、そして底が知れない。



3.


 映画館の前。
 長身の少女の姿ひとつ。少年の姿がふたつ。楓、ネギ、小太郎。
 チケット売り場に並んでいる。
 自分たちの番がめぐってきた楓が元気よくいった。
 

「“28年後”!小学生二枚!中学生一枚でござる!」


 チケット売りのおばさんが「ふー。参ったぜ」といった調子で額に拳をあて嘆息する。それから言った。


「小学生二枚、おとな一枚…だね?」


「小学生二枚…中学生一枚、でござるよ」


 にこりと笑って答える楓の顔をみて、今度は先ほどよりもはっきりと大きいため息をつく。


「そういう冗談は、子どもたちの前でやることじゃないよお姉さん。いちおう保護者ってことになるんだし」


「拙者は保護者ではないしほんとに中学生ででござるよ。だから今日はちゃんと保護者と一緒にきたでござる」


 そう言った楓は、ネギの両肩をガシと掴むと、グイッとその体をおばさんの面前に突き出した。


「こちらが拙者のクラスの担任でござるよ。さあ、ネギ坊主。拙者がまちがいなく中学生だということをショーゲンするでござる」


「え、えええ?」


 突然の展開にネギもおろおろと慌てる。すがるように楓を振り向き来見つめるその姿はどう見てもおとなしげな小学生そのものである。その目がおばさんとガチリ、ぶつかり合った。いぶかしむ様子すらない。眉間にシワ。くわわと口がひらく。のどの奥まで見えた。そこから怒鳴り声が吹き出した。 


「子どもをいたずらの巻き添えにするんじゃあありませんッ!!小学生二枚!おとな一枚!!」


 ―結局すごすごと支払うことになった。


「ネギ坊主。お主はどうして先生なのに子どもなんでござるか?」


 しょんぼり気味に楓がたずねた。


「そ、そういうことは作者の人にきいてもらわないと―」



4.


「ふふふ。無様だな。楓」


 錆びた笑い声。颯爽と現れる長身のりりしい姿―龍宮真名


「“28年後”!中学生三枚だ!」


 堂々と言い放った。


「三枚?」


 楓が眉を寄せる。と、真名の背後からひょこり。ふたつの影が現れる。


「夏美姉ちゃんにちづ姉ちゃんやないか?」


「コタロー君!」


「あらあら。これは奇遇ね」


 真名には千鶴と夏美が同行していた。ふたりの、とくに千鶴の姿があることに気がついて楓がはっと息をのんだ。


「―そういうことでござるか」


 つぶやいた刹那にー


「ちょっと!あなたたちもつまらない冗談が好きなクチかい?中学生三枚って、どう見たってアンタたちふたりは中学生にゃあ見えないよ!」


 口角泡を飛ばす。そういう感じの強い口調でおばさんはふたり―真名と千鶴―に食って掛かる。それを受け止めたのは千鶴の微笑みだった。


「中学生三枚でまちがいありません」


 おだやかな口調。しかしなにもかもを断ち切るような強靭さを持つ声音。浮かべた笑みは柔和そのものだが、深すぎるほどに深く、暗黒星雲が地球を包み込もうとしたとしても揺るぎそうもない。

 
「中学生三枚でまちがいありません」


 千鶴はもう一度、さとすように言った。



5.


「映画おもしろかったな−!なあネギ!夏美姉ちゃん!」


「うん。ぼくも最近忙しくてゆっくり出かけて映画を見るなんて機会はなかったから楽しかったよ」


「あはは。ネギ君ってばなんだかいってることがおじさんみたいだよ」


 上映を終えて映画館からはぞくぞくと人が溢れ出す。その中に6人の姿もあった。楽しげに歓談するネギ、小太郎、夏美。それを見守る三人といった案配に見える。


「今回は私の勝ちだな。楓。お前は中学生料金で入場できなかったのだろう?」


「むむ。ネギ坊主が子どもでさえなければ完璧だったのでござるが」


「いずれにしろ負けは負けだ。きちんと支払ってもらうぞ」


「あいあい。わかってでござる。では今年のバレンタインのプレゼントは拙者からお主にあげることにするでござるよ。せっかくだから手作りプリンをご馳走するでござるかな?」


「て、手作り?それは本当か?」


「おや?拙者の手作りではイヤでござるかな?それともプリンよりやっぱりチョコレートの方が良かったでござるかな?」


「イヤじゃないさ…なんというか、その…うれしいだけだ」


「そ、そういう風にはっきり言われると、けっこう照れるでござるな〜」


 急にお互いもじもじする楓と真名であった。


「なあ、夏美姉ちゃん?バレンタインってなんや?食べれるもんかなんかか?」


「ええッ!?た、食べれないよ!コタロー君にチョコなんかあげないし作ったりしないしないもんッ!」


「な?なにおこってるんや?」


 小太郎と夏美。ふたりの様子をにこにこと嬉しそうに見つめるのは千鶴である。そのにこにこした笑みをそのままに、千鶴は背後の真名に語りかけた。


「龍宮さん。今日のこと、私と夏美をー私だけで良かったのかもしれないけどー映画に誘った理由について、今度ちゃんときかせてくださいね?忘れたりしないでね?」


 おだやかな、おだやかな声。しかしどこまでも深く、底の知れない声だった。真名と、それから楓までが千鶴の言葉に凍り付く。


『これは、試合に負けて勝負に勝った、というヤツかもしれないでござるな』


 ぶるりと震えて、声もなく内心につぶやく。


 立ちすくむ真名の背中が、楓には何故とはなしにすすけて見えるのだった


 St. バレンタインデー。その幾日か前の風景。