ちづ姉お誕生日記念SS@2008!!

那波千鶴さん、お誕生日おめでとうございます!!!


ということで、
ちづ姉ハピ☆バテ記念SSを書いた!!


てらしい初の真面目な「ちづ×なつ」SSっさ!


あと、前回の反省を活かしていいんちょをいいいいんちょにしたつもりであります!


ちょっと長いですが…


タイトル:『二人のシンデレラ』




『二人のシンデレラ』


〈一月二十八日ー午後六時〜午後六時半〉
 「えーん!」


 大きな泣き声が辺りに響き渡る。


 「あらあら、どうしたの?」


 泣き声の主へと駆け寄る影。その影が、泣き声の主にやさしく話しかける。
 ここは麻帆良学園にほど近いとある保育園。園内は、ひらすら元気に駆け回る園児たちであふれている。そんな保育園では、園児同士でのケンカなど日常茶飯事である。
 今回の泣き声も、ある園児同士の些細なケンカによるものであった。おかっぱ頭の女の子が、どこにでもいそうないたずら坊主に泣かされたようである。


 「あら、またケンカしちゃったの?仲良くしなきゃダメよ。ほら、二人とも謝って。ごめんなさいは?」


 ケンカの当事者たちはお互い気まずそうな顔をしているが、優しい声に促され、


 「…ごめんなさい」

 
 「ごめんなさい…」


 と二人は一応謝る態度を示した。
 ケンカが日常茶飯事であることと同様に、保母によるケンカの仲裁も日常事である。泣き声に駆け寄った影は、手慣れた様子で園児たちを落ち着かせ、仲直りへと導く。
 彼女は那波千鶴麻帆良学園中等部の3ーAのクラスメイトである。学校が放下になってから、彼女はこの保育園で保母のボランティアを行っている。
 もうだいぶ長い間ボランティアをやっているためか、はたまた彼女の生まれ持った母性のなすものか、その振る舞い、園児捌きは本職の保育士顔負けである。
 千鶴は、泣いていた女の子を落ち着かせ、泣き止ませる。そうこうしていると、仕事を終えた女の子の父親が迎えに来たようである。父親の顔を見るなり、それまで泣いていた女の子の顔がみるみる笑顔になっていく。


 「パパー!」


 女の子が父親に向かって駆け出し、そのまま飛びつく。千鶴は女の子の父親に挨拶し、そのまま見送った。
 そろそろ千鶴も帰宅する時間である。



〈一月二十八日ー午後六時半〜午後七時〉
 ここは麻帆良学園中等部の女子寮の566号室。雪広あやか那波千鶴村上夏美の三人が住んでいる部屋である。この部屋は、あやかによる積極的なリフォームにより、住人たちが各人の個室を持てるようになっている。
 その内の一室、村上夏美の部屋では、夏美が何やら一生懸命編み物をしていた。


 「よし!あともう一息!これなら明日の、ちづ姉の誕生日に何とか間に合うぞ…」


 夏美は一人つぶやくと、大きく伸びをした。そして、再び手元に目をやり、作業の続きに取りかかる。
 夏美は、千鶴の誕生日プレゼントとして渡しすためのマフラーを編んでいる最中だった。普段演劇部の小道具作りなどで鍛えられたのであろうか、市販のものにも見劣りしないほどの、上手なマフラーが編まれていた。
 夏美は千鶴のために二つのプレゼントを用意していた。一つは今編んでいる最中の手編みのマフラー、もう一つは、新しい目覚まし時計だった。
 この二つを選んだのには理由があった。
 千鶴はこのところ、よく夕食が終わってから天体観測をしに行っている。星を見るのに、冬が最も適している季節だからである。
 しかしながら、この時期は最も寒い時期でもある。そのため、夏美は星を見に行った千鶴が少しでも寒くならないよう、新しいマフラーを編んであげれば良い、と思ったのである。
 また、千鶴はしばしば夜遅い時間まで星を見ている事があった。そのため、夜更かししてしまい、この時期は朝寝坊しかけることがままあった。そこで、ちゃんと朝起きられるように、目覚まし時計をプレゼントしてあげよう、と夏美は思ったのである。


 「明日の朝一番で渡したら、ちづ姉びっくりするかなぁ…」 


 夏美は、千鶴の驚く顔を想像しつつ、マフラー完成に向けて手を動かすのであった。
 そうこうしていると、


 「ただいま。早速夕飯の支度をしましょうか?」


 という声が聞こえてきた。千鶴がボランティアの保母の仕事を終え帰宅したのである。


 「ちづ姉、おかえり」


 と言いつつ、夏美は編みかけのマフラーを自分の布団の中にそっと隠し、普段のように千鶴の夕食作りを手伝うべく、リビングへと向かった。



〈一月二十八日ー午後七時〜午後八時半〉
 普段と変わりない夕食の時間。話題も学校のことだったり、保育園のことだったり、演劇部のことだったり、ネギ先生がいかにかわいらしいかということだったり…


 夕食を終え、各人の自由時間になると、千鶴は普段通り天体観測に出かける。夏美は夏美で、千鶴がいない隙に仕上げをしてしまおうと、いそいそと自分の部屋に戻った。



〈一月二十八日ー午後十時半〜午後十一時〉
 千鶴が出かけてから二時間ほど経っただろうか。


 「ただいま、あら?夏美ちゃん、まだ起きているの?」


 「うわっ、ちづ姉ちょっと待って!」


 「うふふっ、小太郎君へのラブレターでも書いているのかしら?」


 「ちづ姉、待っ…」


 夏美は必死で千鶴へのプレゼントを隠そうとする。しかしその刹那、千鶴は夏美の真横に滑り込んでいた。そして、夏美が隠そうとしていたモノに目をやる。


 「あら、その手に持っているのは…」


 「な、な、な、何でも無いよ!ほんとだよ…」


 夏美は必死に隠そうとする。しかし、もはやバレてしまっているのは明らかである。みるみる内に夏美の顔は紅潮していき、目には涙がうっすら滲んでいる。せっかく千鶴を驚かそうと思い内緒にしてきたのに、ここに来て千鶴に知られてしまうなんて…


 「もしかして、私の為に夏美が作ってくれたのかしら?ありがとう。」


 そんな夏美の気持ちを知って知らずか、いや千鶴の場合は夏美の考えなど、夏美の手元を見た瞬間に気づいていたかもしれない。その上で、いつものように茶化しているだけなのかもしれない。
 しかし、夏美にとってはせっかくのサプライズがダメになってしまって、もはやショックであることしか頭の中になかった。夏美はそれまで目に溜めていた涙をぼろぼろと落としながら、絞り出すような声で千鶴に言う。


 「せっかく、せっかく明日の朝渡して、驚かせようと思ったのに…」


 その様子を見た瞬間、その言葉を聞いた瞬間、千鶴の動きが一瞬止まる。
 いつも、どれだけからかっても、それはお互いにとって愛情表現の一つの形であった。しかし今回ばかりは、千鶴もやりすぎてしまったようである。夏美が自分を驚かせたかったこと、自分のために一生懸命プレゼントを作っていてくれた事、そして、自分のために夏美がしてくれていたことを、自分が台無しにしてしまったこと…


 「夏美、わたし…」


 千鶴は夏美に手を掛けようとする。
 しかし、軽いパニックを起こしていた夏美は、その手を強く払いのけてしまう。


 パシッ!


 夏美の顔がこわばる。しまった。
 今まで何をされても、ちづ姉のことだから、と許してきた夏美であったが、千鶴に対してこんなに怒り、ましてや千鶴を拒否するかのような態度をとったことは初めてであった。そして、初めてであるがゆえ、それからどうしていいかわからなくなってしまった。ただただ混乱するばかりである。


 「夏美…」


 千鶴がこれまでに見た事も無い悲しそうな顔でこちらを見ている。もはや夏美には、その場から逃げ出すことしかできなかった。


 夏美は黙って勢いよく立ち上がると、そのまま駆けて部屋から出て行ってしまった。



〈一月二十八日ー午後十一時〉
 夏美が出て行ってしまい、シーンと静まり返る室内。夏美が出て行った先を、リビングの真ん中からただ呆然と見つめる千鶴。


 「夏美……」


 すると、個室のドアが開き、ネグリジェ姿のあやかが姿を現す。


 「全くもう!こんな夜遅くに何の騒ぎですの!」


 「あやか…」


 そこには、かつて見た事も無いような困り果てた顔をした千鶴が立っていた。


 「あら、千鶴さん、どうされたのですか?」


 あやかは、そんな千鶴に多少驚きつつも、冷静に状況を整理しようと試みる。


 「実は……」


 千鶴はあやかの問いに答えるように、いやむしろ、自分自身の置かれた状況が一体何なのであるかを自ら再確認するかのように、事の顛末を語りだした。


 ひとしきり千鶴が説明し終えたところで、あやかが静かに口を開く。


 「なるほど、そういうことでしたの…」


 「なんだか、夏美にひどいことをしてしまったみたいで… こういう時、どうすればいいのかしら…」


 語ってみて、これまでに無い事態にある事を改めて確認する千鶴。どんなに茶化しても、何となく笑って許し合えてきた関係が遥か昔のように思えるほどであった。千鶴は、もはや為す術を失い、オロオロするしかなかった。
 あやかは、そんな様子の千鶴を見ながら軽く首を振る。そして、小さくため息をついてから、強い口調で話しだす。


 「そんなの簡単でしょう?」


 千鶴があやかの方に顔を向ける。そこには、凛々しい表情をしたあやかがいた。


 「いまから追いかけて行って、すぐに謝ってきなさい!」


 「あやか…」


 「あなたにとって村上さんはかけがえの無い友人の一人のはずです。そして、村上さんにとっても同じであるはずでしょう?それならば、ちゃんと謝るべきです!」


 千鶴はあやかの勢いに一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を緩める。


 「…そうよね。ありがとう、あやか…」


 千鶴はこのとき、心からあやかの事を感謝していた。自分のことを理解してくれていて、自分と夏美の関係のことを理解してくれていて、それでいて甘やかさずに必要なときに叱ってくれる…。
 そこにはもはや、迷いの去った、普段の穏やかな表情をした千鶴がいた。


 「それでこそ、わたしのあやかよ…」


 「そ、そんなことより、早く村上さんに謝ってらっしゃい!ちゃんと仲直りしないで帰ってきたりしたら、それこそわたくしが許しませんわよ!」


 千鶴は、あやかに急かされるように部屋を出る。その手に、夏美からのプレゼントを抱えながら。



〈一月二十八日ー二十九日〉
 「やっぱりここにいたのね…」


 暗闇の中の人影が、もう一つの人影の背中に声を掛ける。

 
 「ちづ姉!どうして…」


 夏美が振り返る。
 ここは麻帆良学園の教会前広場。普段夏美が台詞を覚えるときに使っている場所だった。人間、何かあったときには普段の習慣にそった行動をしてしまうものである。それゆえ、いつもの夏美の行動パターンを理解している千鶴にとっては雑作も無いことであった。


 「あら、夏美ちゃんの考えていることなんてお見通しよ!」


 多少おどけた口調で千鶴が言う。しかし、夏美は再び背を向けてしまう。そして、震えた声で


 「ちづ姉…、ごめんなさい。私…、私…」


 夏美はこれ以上言葉を続けられなかった。自分が悪いのか、千鶴が悪いのか、いや果たして何が悪いのか。色々なことが頭の中を思い巡り、何を言うべきかわからない状態にあった。
 夏美は、千鶴に背を向けながら、すすり泣き始めた。
 千鶴は、そんな夏美に近づくと、後ろから包み込むようにやさしく抱きしめた。そして、ゆっくりと口を開く。


 「夏美、謝るのは私の方よ。ごめんなさい。」


 夏美のすすり泣きが少し弱まる。千鶴はそれを確認して、続ける。


 「私、夏美ちゃんにひどい事をしてしまったわね。私のために一生懸命がんばってくれたでしょうに、最後の最後で台無しにしてしまった…。だから、ごめんなさい。」


 千鶴はさらに続ける。


 「でもね、夏美が私を大事に思ってくれていること、ちゃんと伝わったわ。」


 千鶴はそういうと、手に持っていた夏美の手編みのマフラーを短く自分の首に掛けた。そして、あまった部分を、夏美の首に巻いた。


 「ちづ姉…」


 夏美は自分を抱きしめている千鶴の顔を覗き込んだ。そこには、普段と変わらない笑顔があった。


 「夏美、暖かいわね…」


 「…うん。そうだねちづ姉…」


 その瞬間、


 ジリリリリッ!


 という大きな音が鳴り響いた。
 千鶴の手にあった、夏美からのもう一つのプレゼントである目覚まし時計が大きくなり響いた。見ると、時計の針は十二時を指していた。どうやら、初期設定で十二時に目覚ましがなるようにセットされていたらしい。

 
 「もう十二時になっちゃった…」


 「本当ね。」


 二人は改めて顔合わせる。そして夏美が、これまでのイザコザを吹っ切るように、はつらつとした声で千鶴に向かい言う。


 「ちづ姉!お誕生日おめでとう!これからも、よろしくね!」


 千鶴が応える。


 「ありがとう、夏美ちゃん。こちらこそ、よろしくね。」


 そこには、今までよりも輝いた笑顔に満ちた、二人の姿があった。




【追記】
ちなみにいいんちょさんからちづ姉へのプレゼントは天文台...だったらいいなぁ(笑)。