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ハピ☆バデ
長瀬楓さんお誕生日おめでとうございます。
2007年現在、あの学園はエスカレーター式だからうっかり大学まで進学とかして単位がとれずに苦労したりしてるかも、とjoseは若干心配してます。のほほんとしてるうちに8年間在学しかねん。
風香や史伽とも学部が別になったりしてるかもしれないし、たつみーとかはきっとプロフェッショナルとして世界をまたにかけてると思うし。
それぞれの道が次第に離れはじめているのかも…と勝手に想像すると目から水が出そうになるよ。
でも楓さんとたつみーは、久々にあってもいつも通りの感じでしゃべってるのだと思う。(たつみーは無理して素っ気ない態度)
ともあれ、十代最後の1年を楓さんがのんびり過ごせるように陰ながらあと日向からも見守っていく所存です。
モロゾフで買ったきたプリン(カスタード&イチゴ)に囲まれてご満悦の長瀬楓さん(19)
で、生誕19年記念SSは以下に。
余り推敲されてないのでなんなのだけど。
1112
楓さんハピ☆バデSS
1.11/12a
どんよりとして重たい空気が教室に満ちていて、その発信源である5人は一様に苦悶と懊悩の表情を浮かべている。
綾瀬夕映。神楽坂明日菜。古菲。佐々木まき絵。長瀬楓。
つまりー
バカブラック。バカレッド。バカイエロー。バカピンク。バカブルー。
いわずとしれたバカレンジャーの面々である。
バカレンジャーの5人を見つめ、黒板を背にして神妙な面持ちで教卓に立っているのは、まだ表情に幼さを滲ませる少年であり、右手に杖を携えたその少年の名前を私たちは知っている。
放課後。補習中の風景はいつも通りと言って良さそうだ。
ネギは心配そうな表情で5人を見る。かわるがわる視線を映す。
答案用紙が発火しそうなくらいの眼光。アスナの表情はいっそ凶悪とすら言えそうで、答案用紙が憎くて憎くてたまらないように見える。そしてきっとほんとにそう思っている。パキッと乾いた軽い音がして右手に握った鉛筆でへし折れた。
ーこれで4本目。ネギは脳裡に浮かぶ書きかけの「正」の字に一画を加えてー大丈夫かなあーと思う。今日はちゃんとやってもらわないと困るんだけど。
まき絵も必死である。いつもの明るく元気な表情とはうってかわっての、眉間に深いシワを寄せた顔つきは真剣そのものだ。くちびるが”ひょっとこ”のようにとがっているが、それにも気づいていない。しかし、その真剣さとはうらはらに、シャープペンシルを持つその手はピクリとも動かない。完全に沈黙している。
ーうう。まき絵さんも大丈夫かなあ。ネギの心配はますます増量中、となる。
しかし、ふたりからは必死の気配が伝わってくるからまだマシかもしれない。と、ネギは視線を映す。その先にいるのは夕映。
微動だにしない。彫像のようなその姿。
答案用紙を見る訳でもなく、じっと正面を見つめている。退屈ーその言葉がはっきりときざまれたその顔。口はへの字に結ばれている。
ーまいったなー。夕映さんはやる気さえあればできる人だと思うんだけど。
そんなネギの内心のため息に合わせて、こちらは実際のため息を発したのは古で、その表情は百面相のように落ち着かなずくるくると転変している。表情のくるくるした転変に合わせるように、古は指先で器用にシャープペンシルをーこちらもくるくるとー回転させていて、ふぅー、とか、はぁー、とかいうため息のたびに、その回転の速度が加速度的に増す。一生懸命考えているように見えて、多分、きっと、本当は、シャープペンシルを回すのに夢中になっているんだ、と、コレはネギの推量である。
ー古老師は注意力が散漫だからなー。通知表にもいつも書かれてるはずだけど。とすっかりしょげるネギ。かくりとその肩が落ちる。
ーこんなんじゃ予定がくるっちゃうよー。思いながらネギは、最後のひとりー長瀬楓を見る。
こちらは古とは対照的で、落ち着いたものである。ゆったりと構えて急いた様子はかけらもない。泰然自若、春風駘蕩、悠々自適に馬耳東風。落ち着きが行き過ぎてもはや茫洋たる感じである。
答案用紙に向かうはずのいつも通りの薄目からは、まったく気負いというものがないが、気合いもやる気もすっかりゼロ、に見える。
ーと。かっくんと楓の頭が沈んで、アンテナのように飛び出た前髪のひとふさが、ピョ〜ンと跳ねた。
………寝てる?楓さんー寝てる!?一瞬驚いてそれからいっそ呆れました、という風にネギの表情がかわって。ーもう、心配するのもバカらしくなっちゃうよ。
ぷくり、とほほをふくらました。
0.11/11
「えー、バカレンジャーのみなさんには明日の放課後、居残りで補習をうけてもらいます」
きっ!と”先生の顔”で言う。ネギ。
「えー!ひどいよ〜ネギくん!」
「ちょっとネギ!バカレンジャーっていうのやめなさいよ!」
「やるだけ無駄だと思うです」
「…に、日本語むずかしくて良くわからないアルな」
「いや〜そう興奮せずとも良いではござらぬか」
毎度の騒ぎである。
「なに言ってるんですかー!昨日の小テスト、5人とも0点なんですよ!だいたい夕映さんは白紙だし、古老師とまき絵さんは答案用紙によだれがついてます!アスナさんと楓さんは自分の名前まで間違ってるんですよー!?」
さすがのネギもちょっぴり怒り気味に言い返しー
『うぐぐっ!』
と5人は言葉をつまらせる。
「とにかくー明日は合格するまで帰れないのでそう思ってください!」
残る4人が、こいつは止む無しという感じに、ため息をついたりうなだれたり頭をかきむしったり涙ぐんだりするのを横目に、さてはて困った、というあまり見せない表情をするのは楓。
「明日ーでござるか?」
ネギにたずねる。
「明日ですよ。頑張ってください!」
まったくもって明朗な調子で答える。
「うーむ」
楓は眉間にちらとしわを寄せて風香と史伽の双子に顔を向ける。
「風香どの〜。史伽どの〜」
「自業自得だねッ!ボクは満点だったよー!」
意地悪そうに笑う風香。
「私も満点だったですー」
困り顔の史伽。
表情や口ぶりはまるで違うけれど、共通しているのは楓を助けてやろうという気がまるでないところだろう。風香がいうように、確かに自業自得なのだ。
とりつくしまのない双子から目を移して、楓は真名の方をーじっと、見る。
真名はため息を短くひとつ。
「−楓。私を見てもどうなるものでもないだろう。ちゃんと勉強しないのが悪いんじゃないか?」
「ちょっとやそっとの勉強では、拙者のバカはなおらんでござるよー」
泣きつくよう楓だが真名はにべもなくー
「だったらなおさら補習をする必要があるだろう」
言って、プイッとそっぽを向いた。楓はしょんぼりとー
「殺生でござるよー。それでは明日のスケジュールが…」
呟くのだった。
2. 11/12b
「そんなにうまいのか?」
「うまいに決まってるではござらんか。真名も変なコトをきくでござるな?」
「そんなに変なことか?」
「変なコトでござるよ。このトロっとしてフワッとした柔らかい口当たり。しっかりと感じられるが、けっしてしつこくない絶妙な加減の甘さ。卵の風味もちゃーんとしていて、まったりとしてそれでいて少しもくどくないでござる、それにこのカラメルの香ばしさ。さすが数量限定の特別製スペシャルプリンでござるよー」
「なあー楓」
「あいあい。なんでござるか真名?」
「それはプリンじゃないぞ」
「なにを言ってるでござるか?これがプリンじゃなければ一体なんだというのでござるか?」
「…カエルだ」
「?」
「それはカエルなんだよぉおおお!」
瞬間。天地の様子は一変して、楓のまわりには無数のカエルがぴょこぴょこぴょこと跳ね回る地獄となった。楓が真名と思って話していたのも、よくよく見ればただのカエルである。突き抜けるような悪寒が全身をつらぬいてー
「うひゃああああああああああああ!」
絶叫した。と思ったら目が覚めた。すべては夢である。目の前にいるのはありがたいことにカエルではなく、それに真名でもない。厳しい表情でネギが睨んでいた。
「起きましたねー」
「い、いやー。拙者寝てなどおらぬでござるーよ?」
はははー、と笑ってごまかそうとしたが、およそ通じそうでない。
「ほかの皆さんはとっくに合格して、居残りしてるのはもう楓さんだけですよ!」
言われて教室を見回せば、確かに残る四人は影もない。
−アスナどのまで拙者より先に合格したでござるか。と、これにはちょっとショックの楓である。しかしー
どうせ今からでは、数量限定プリンは売り切れているに決まってるでござる。がんばっても仕方がないでござるよ。
そう思った。せっかくの約束がご破算になって、楓は実のところちょっぴり不機嫌なのだった。双子や真名も、まったく気にしていない風だったのがさびしい。恬淡とした人柄の楓はあるが、プリンのことはさすがに残念であったし、それにー
今日は拙者のー
「今日は楓さんの誕生日でしたね」
見透かすようにネギが言葉をつむいだので、楓はさすがに驚いた。
「知っていたでござるか」
「ボクは楓さんの担任ですからね」
にこりと笑った。
「しかし、それではこれは随分ときびしい誕生日プレゼントでござるなー」
苦笑いで言った。ちょっとだけ気分が軽くなる。
「うーん。これはたまたまなんですけどね。でも、誕生日なのに補習があってイヤだからって、やる気をださないのはいけないと思いますよ」
「たはは。気付かれていたでござるか」
ますます苦笑い。どちらかとプリンが惜しかったのだけど。
「はい。ちゃんと頑張って居残り補習を突破したほうが、いい誕生日の思い出になると思います」
「ネギ坊主はやっぱり真面目でござるなー」
ネギの真剣そのものの言葉を聞き、楓は柔らかく笑ってー
「しかしネギ坊主の言うとおりかもしれんでござるな」
―そして一時間後。
シュッ、シュッ、と紙の上を赤ペンが走る音を聞きながら、楓は神妙な顔で立っている。ネギが答案用紙を採点しているのだ。音がやんで、ネギが顔をあげる。
笑顔。答案用紙を楓に手渡しー
「合格です」
「ふー。やったでござ…」
言いかけた瞬間。教室の前後の扉がバンバンバンと開いてー
「ハッピーバースデー!!!!!!!」
クラスの面々が飛び込んできた。さすがにぽかんとして立ち尽くす楓。
「楓姉おめでとー。びっくりしただろー!楓姉がいつまでも合格しないから待ちくたびれちゃったよ」
「お料理が冷めちゃうかと思ったですー」
「でも楓が合格するのに時間かかって助かったアルよ。楓が一抜けだったら私たちがお祝いの準備するひまがなかったアル」
「たしかにその通りです。とくにアスナさんは危なかったです」
「ちょっとうるさいわねー。私だって今回がんばったんだから!」
「ボクとしてはみなさんが赤点をとらなかったら一番うれしかったんですが」
やれやれと言う顔で笑って、それから楓に顔を向けるネギ。
「じつは、風香さんや史伽さんにびっくり誕生パーティーの手伝いを頼まれてしまって。せっかくの誕生日に補習しちゃってすみません」
「いやいや。投げずに頑張ったあとにこうしてみんなに祝ってもらうというのはーとりわけ嬉しいでござるよ」
ゆったりとした笑顔も、どこかしらいつもより昂揚してみえる楓だった。それから、ちらちらと当たりを見回す。
「あら楓さん。どなたかおさがしですの?」
と声をかけたのはいいんちょこと雪広あやかだ。その背後には恒例のプレゼント。大理石で造られた楓の胸像がドン!と偉容を誇っている。
「いやー誰というわけでも…」
言いかける楓を優雅な仕草でさえぎって、つと指先をある方向に指す。
「龍宮さんはあちらですわ」
典雅に微笑む。楓があやかの指し示す先を見ると、そこにあるのはなにやら大きく黒い影である。のそりのそりと近づいてくる。モフモフの毛でおおわれた丸い影。
真名はきぐるみ姿であった。
顔の部分だけが見えるようになっている。そしてその見える顔は赤い。恥ずかしげな表情である。
「楓……ハッピーバースデー…だな」
楓はニヤリと笑ってー
「熊…でござるか?」
「違う…こ、子犬だ」
「子犬にしては大きすぎる気がするでござるが」
「とーとにかく子犬なんだ!くじ引きに負けただけで好きでこの格好をしてるわけではー」
「ボクおぼえてるよー!“子犬”のきぐるみは真名が自分でえらんだよーッ!」
「う、うるさいな風香。きぐるみを着るようになったのはくじ引きで負けたからだろう。楓―あまりじろじろ見るな」
「なんででござるか?拙者にはやっぱり熊みたいに見えるでござるが、真名のその格好…かわいいでござるよ」
にこりと笑って言った。
「バカ!楓!からかうな」
「からかってないでござるよかわいいでござるよ」
「だからからかうなと言ってるだろう!」
「からかってないでござるよかわいいでござるよ〜」
恥ずかしがる真名を見て、楓はニコニコ笑っている。言えば言うだけ楓を喜ばすだけだと気付いて、真名は苦虫を噛み潰したような顔になり、それからぶっきらぼうに手に持った包みを差し出した。
「プレゼントだープリンだよ。さっき買ってきたんだ」
「!!!!これはまさかあの数量限定プリンではござらんか」
「そうだ。お前は気付いてなかったようだが、あの店、テイクアウトもできるんだぞ」
「そうだったでござるか〜。う、嬉しいでござるよ〜」
包みから取り出したプリンを、楓はそれがまぶしいものであるかのような表情でうっとりと見ている。恍惚たる顔つきである。
―やれやれ。こんな格好しても結局プリンにはかなわないか。
クスリと笑ってから、そんな楓に真名は声をかける。
「ほら。楓。プリンに夢中になってないであっちに行くぞ。みんなからもまだプレゼントがあるみたいだからな」
「あいあい」
END